Piccola Piazza di Racconto ピッコラ ピアッツァ ディ ラッコント
小さな話の小さな広場

Vol. 3

ここでは、今までに私がイタリアで出会った出来事を、面白かったり、嬉しかったり、困ったり、感心したり … といった私の視点から、「食・旅・交際・歴史・アート全般」など分野を問わず、思い出すままに記していきたいと思います。

気楽に楽しんでいただければ幸いです。


第3話 リストランテ(レストラン)のまかない

従業員のための食事を「賄い(まかない)」といいますが、料亭やレストランでは毎日どんな賄いメニューを食べているのか …? けっこう興味のあるところです。

実を言うと、私がフィレンツェのレストラン「クアットロ・スタジョーニ」に見習いに入るにあたって、一番楽しみだったのはこの「賄い」でした。

地下室へ朝9時、出勤するとオーナーシェフのピエロ氏が「セツコ、一緒においで」と言って地下室への階段を降りていきました。石作りの古い建物(ひょっとしたら4、5百年前か)の地下はひんやりと涼しく、階段部分は古色蒼然としていて一足降りるごとに、歴史に向かって踏み出すようなロマンを感じさせます。

地下室のワインセラーけれど、地下室の壁は白い漆くいが塗られ、思いのほか明るいと思いました。奥の部屋はワインセラー、手前は食糧棚、調理器具棚などがあり、真ん中に大きな冷凍庫が置いてありました。

ピエロ氏は冷凍庫の蓋を開け、中から大きな鶏を取り出しました。「お昼に皆で食べよう!」

この日の賄いは「ペンネ・アッラビアータ、スパイスをきかせて焼いた鶏とジャガイモ、野菜サラダ、パン、ワイン、エスプレッソ」という豪華版でした。毎日、だいたい似たような感じです。2、3日経たところでやっと気が付きました。その日のメニューが厨房のすみっこの小さな黒板に書いてあることを …。バンザイといきたいところですがそうはいきません。なぜかって? 読めないのです。

イタリア人の手書きの字って人にもよりますが、慣れないとまず読めないですね。そもそもアルファベットが何を書いてあるのか分かりません。反対に私がかなり丁寧に書いたつもりの字も、筆記体だと彼らには読み難いらしく、何という字か?と聞かれます。書き方の習慣の違いです。

そしてことのほかピエロ氏の字は「達筆」でまったく判じ物のようです。ある日、奥様(ロリアーナさん)も一緒の時私は言いました。「ピエロ先生、あなたが書いたものは私にはパズルのよう」「そんなことはない!」ムッとしてピエロ氏が一言。かたわらでロリアーナさんが笑いころげています。そして私の方をチラッとみて「そうよ。そうよ。」

優しいピエロ氏が私に向かってムッとした顔をしたのは後にも先にもこの時だけです。

そして、賄いのお昼ごはんを食べながら従業員同士よくしゃべる、しゃべる …。私にはまったく何を言っているのか分かりません。ロリアーナさんが気を使って「こんなこと言っているのよ」と時々私に分かる範囲でゆっくりしゃべってはくださるのですが。

賄い風景ある時、ごはんがすんでから皆が雑誌を囲んで口々に何やら面白そうに話しています。「見る?」ボーイ長が私の前に雑誌を回してくれました。それはお金持ちそうな老夫人と青年が並んだ写真です。それについての記事が2ページにわたってびっしり書いてあります。

「祖母と孫?」きわめて常識人?の私は聞きました。首と手を一斉に振りながら「ノン! ノン! ノン!」全員が叫びました。「えーっつ?分からない」「あのねー、花嫁と花婿なのよ。」「82才と27才だって」「ウッソー!!お金目当て?」「皆そう言ってるよ。書いてあるし … でもすごいね」かなりのことに驚かないさすがのイタリア人もびっくりらしいです。

残念ながら、その後このカップルがどうなったかは聞くチャンスがありませんでした。

また別の日、午前中の仕込みの途中「買い物に行くけどセツコ一緒に行く?」とロリアーナさんから誘われました。近くの教会広場に朝市がたっています。そこで妙な野菜?を見つけました。硬いセロリの茎のような、木の枝みたいなものが束ねてあります。「これ何?」「カルチョーフィ(アーティチョーク / 朝鮮アザミ)の茎よ」「どうして食べるの? 美味しい?」たて続けに聞く私に「ピエロにお昼に作ってもらいましょうよ。」ロリアーナさんはそう言って大きな束をひとつ抱えました。

この野菜はあく抜き(皮を剥いて中の芯を小麦粉入りの湯でゆでてしばらく浸しておく)が必要なため、その日のお昼には間に合いませんでしたが、翌日「ナツメグの香りをきかせたグラタン」になり、さらに次の日「フリット(揚げ物)」となって賄いに登場しました。「リストランテのメニューには出てこない」とのことです。かすかな苦味と、もったり・さっくりした歯ざわりが美味しかったですね。

かなり後になって、この植物は「カルドン」という名前だということが分かりました。アーティチョークの親縁種だそうです。一般の日本人でこれを食したことのある人は少ないのでは?と思います。(ちょっと得意!!)

とり止めなく書いてしまいましたが、この「クアットロ・スタジョーニ」で見習いをしていた時の話は尽きることがありません。今回はここまでにしておきましょう。

2005-11-28